結晶はある決まった原子の配置が繰り返し並んだ構造をもつ。
このような規則性を並進対称性と呼び、物質の構造の基本と
考えられていた。並進対称な構造では
全体を決まった角度だけ回したときに全体が一致するという回転対称性
やある平面の右と左が鏡に映った像の関係であるという鏡映対称性を合わせもつ。
また全体を 72 度(360度の1/5)だけ回した時に一致するという
回転対称性(正5角形の対称性)をもつ構造は決して並進対称では
あり得ないことが知られている。
1984 年に Shechtmann らにより並進対称性とは矛盾する回転対称性
をもつ構造の合金が発見された。このような構造を理解する鍵は図に示した
ペンローズの非周期的タイリングであることが指摘され、このような
規則性を準周期性、準周期性をもつ結晶を準結晶と呼んだ。
従来、液体を急冷したアモルファス合金では
原子の局所的な並びが並進対称性と矛盾する回転対称性をもつもので
あることが指摘されていた。しかしながら準結晶はアモルファス合金
と異なり、熱処理しても他の構造に変化しない安定相として
存在することが明らかになってきた。
固体物性論の出発点は並進対称性をもった結晶構造にあったと言っても
過言ではない。その意味で準結晶の発見は固体物性論の教科書を
すべて1から書き直すような重要性をもっている。